長野博という男がいた。
彼はたいそうよく食べる人で、ラーメン屋の梯子は元より、焼肉屋を部位事に厳選し梯子するようなグルメだった。
俺はそんな長野くんのことを常々「変態だよな」と感じ、「頭おかしいんじゃないの?」とすら思っていた。
だから今日も今日とて、楽屋にあった差し入れの饅頭を美味しそうに食べていた長野くんに、何とは無しに尋ねてみることにした。

「ねぇ、長野くんの胃はブラックホール的なあれなの?」
「ん?今日はまだそんなに食べてないよ?」
「まだ昼過ぎだからね。でもどうせお昼はお店新規開拓したんでしょ。」
「近くに新しく出来たラーメン屋さんがあってね。あと気になってたイタリアンのお店行ってきちゃった。」
「昼から梯子したの!?」
「ラーメンは別腹ですよ。」
俺は相変わらず変態だなと呟きながら、今も黒々と光る餡子を吸い込む口と、摂取量に比例して膨らむことのない腹に目をやった。
そうしてしばらく長野くんが饅頭を食べるところをじっと見ていたら、ふと納得した。

「やっぱり長野くんの胃はブラックホールなんだ。」

長野くんはふふふと笑いながら、饅頭を口に運ぶ。
ほら、また一口。真っ暗な宇宙をその口が食べた。
きっと、この人の腹には、膨大な宇宙が詰まっているのだ。

 

胃袋が宇宙

2015.4.5.